猫爺

後輩に聞いた話。

後輩は埼玉県でも都内に出るに私鉄が一本しか無い街に住んでいる。充分に東京通勤圏であるが、かつては市内のいたるところに雑木林が点在し、都内の住宅地とは色合いの違う自然の多い郊外の街並みだったと言う。

後輩が小学生の頃に通学路の途中に雑木林があって、その傍に居を構える一人暮らしの老人がいた。老人は猫好きで何匹もの猫を飼ってともに暮らしていて、地元では「猫爺(ねこじい)」と呼ばれていた。猫爺はもうすでに隠居暮らしのような生活をしていて、当時の後輩は近くを通りかかり見かけると挨拶をするくらいの、近所のお爺さんという程度の関わり合いであったそうだ。

ある年の冬の頃のこと。猫爺が行方不明になり、そして猫もともにどこかにいなくなってしまう。もしかしたら近所を流れる河川に落ちてしまったのではないかと、地元警察によって猫爺宅周辺が捜索されるも発見はされなかった。範囲を拡大し市内全域で捜索しても結局猫爺は見つからないまま、一旦は捜索活動は停止されてしまう。

冬も終わろうと言う頃、猫爺の家の近くの雑木林のあたりから異臭が放たれるようになった。後輩も通学途中に異臭が気になりだし、学校では「あそこに猫爺がいるんじゃないか」などと噂になった。そして近隣住民による異臭への通報によって猫爺の捜索が再稼働される。

結論を言うと、この雑木林で猫爺の遺体が発見された。

雑木林のあたりを通り掛かる人は多かったものの猫爺がなかなか発見されなかった理由は、遺体の発見場所にあった。猫爺の遺体は雑木林の奥の方にある、一番高い樹木のてっぺんで首を吊った状態で発見された。見上げても気が付きにくいような目の届かない場所であったが、時間を経ていて腐乱度合いも激しくなり、異臭を放つことでようやく存在を知らしめたのだった。

しかしながら体力のないはずの老人がどうやってあの高い樹木のてっぺんに登って首を吊ったのかは、未だに不明であるそうだ。木登りに使えそうな林業の道具類も発見されてない。また、あれだけ多頭飼いされていた猫の行方も不明のままであった。

なお、猫爺は警察には「自殺」であるとして片付けられている。猫爺の血縁者について知る人もいないそうである。 今では猫爺は無縁仏として眠りについているとのこと。

  

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