シャチの夢

夢をみた。

海岸近くの商店街を歩いていた。

小学生くらいの子供たちが、釣竿のような棒からタコ糸をダラリと下げて走り回っている。
先っぽには針が付いていて、今思うと釣竿にしか見えないはずなんだけど、それでも何故だか夢のなかでは釣竿だとは思わなかった。
何本も引きづられた糸に躓きそうになり、腹が立ったので舌打ちしてしまう。

どうやら、子供たちは海辺へと向かっているらしい。
子供たちだけじゃなく、町にいる人の多くは海辺へと向かっている。
なにやら面白いものでもあるのかなと思い、付いていくことにしてみた。

行き着いた先は崖が擂鉢上になったような地形で、下には砂浜が見える。海中には何かの生物がいて、町の人たちはそれになにやらまくし立てていた。
まくし立てる、と言うよりも、海中に向かって罵声を浴びせているように見えた。

海中にいた生物はシャチだった。
町の人たちはシャチを殺そうとしていた。
大きな体のシャチには浅すぎる砂浜で、打ち上げられそうになっているところに石が投げつけられていた。
息も絶え絶えなシャチは水中に逃げ込もうとしていたが、子供が飛び込み挑発して、シャチを引きづりだす。

とうとう砂浜に打ち上げられたシャチに町の人たちは大喜び。

でもおれはシャチが可哀想になり、近くにいた人に話しかける。

何でこんなことするんだ?

これは町に伝わるお祭。
シャチが近くにやってきたら皆で殺すんだよ。
ココは辺鄙なところで、それしか楽しみがなくてね。

そんなことしか娯楽がないのかよ。

ああ、そうだとも。
だってそれが伝統なんだよ、この町では。

ちょっと可哀想なんじゃないの?

そんなやりとりをしていると、町の人たちはおれの方を向いていた。
シャチを殺すのは伝統で娯楽である、それにいちゃもんをつける余所者が生意気だと言いたげに、視線は敵意むき出しだった。

それで今度は、おれは浜辺へと目を向けた。

シャチはもう死んでて、人間の姿をしていた。
浅黒く焼けた肌で乳首は真っ黒、長く伸びた髪はチリチリに。眼球と内臓は飛び出して干からびてた。このシャチはメスだったんだなと思った。
シャチは賢い生物だとはいうけど、人間そっくりな生物だったんだ。

それで何故だか申し訳なく思い、おれ泣きそうになっていた。